西宮市 木原たか子皮フ科クリニック|皮膚の病気-心に残る症例-水虫を笑うものは水虫に泣く-

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心に残る症例
-水虫を笑うものは
水虫に泣く-

リストマークはじめに

私の臨床経験の中で特に印象の深かった”心に残る症例”についてお話させていただこうと思います。

”アッ、菌糸が見える”早鐘のように胸が鳴り出した。まさか、一生に一度経験するかどうかの希有な症例に出会うとは。これが深在性真菌症(白癬菌性肉芽腫)との出合いの始まりでした。
”ウ~ン”皆なが押し黙ってしまった。兵庫医大医局の病理組織検討会での結論は、形質細胞や巨細胞ならびにリンパ球での浸潤を認め、非特異的な慢性肉芽腫性反応の所見で、悪性細胞は認められなかった。
これは予想外であり、ミステリアスとも言える結末だった。というのは、生検前の臨床像からは、私が臨床診断し、他の人も同意した菌状息肉症など悪性腫瘍が考えられ、組織診断でごく簡単にその結論が出るはずだったからです。
主治医である私と先生(先生は、この4月から明和病院に赴任する予定。大変優秀で、かつ患者さんに優しい。)は悩んでしまった。明日からの治療がせっぱつまっていた。
医局の図書館の本を片っぱしからひっぱり出して、似ている症例を順番にさがした。夜も更けて、まぶたも弛み、大分疲れてきた頃にクロモミコーシスというごくまれな真菌症のページに目が止まったのです。
これは教科書で名前を見て知っているだけで一度も経験したことのないごくまれな疾患です。
2人で、”まさかね~”といいながら明日真菌検査をしてみようということになりました。この時、ふと頭の中を恩師の笹川和信先生(大阪の皮膚科の先生)の言葉がよぎりました。
”診断に困った時は、梅毒、結核、真菌症を考えてみる”
翌日、真菌検鏡してみると、患者さんの体のあちこちから真菌が認められた。医局中が驚いた。

リストマーク症例

症例は60才、男性

25才頃より足白癬、爪白癬が存在したが水虫と思い放置。
40才頃により原因不明の全身性の掻痒性皮疹が出現する様になった。
59才(初診の1年前)より下顎部に腫瘤が出現。

その後徐々に同様の皮疹が前額部、頭部、前腕部にも出現し、両手の指が肉芽腫様に腫脹してきた。
また、20年前より年に数回のリンパ節腫脹を認め腹部、腋窩などに腫瘤が出現し、摘出術を受けていた。

リストマーク治療及び経過

毎日約2時間にわたるガーゼ交換と、抗眞菌剤の点滴加療の末、約3ヶ月後には、手の腫脹及び、顔面、頚部、前腕の腫瘤はすべて消失し、さらには全身の紅皮症状態もすべて消失した。

入院時の検査でIgEの高値、好酸球の増加、カンジダ等に対するRASTスコアーの陽性を認め、アトピー性皮膚炎にみられる検査所見を示したが、皮疹消失後はこれらのデーターも改善された。

私はこのデーターから、全身の紅皮症は真菌に対するアレルギー反応によるものと考えた。
そしてこれは難治性のアトピー性皮膚炎の治療の手がかりになりうる所見ではないかと考えている。

リストマーク退院

退院時患者さんが私に言った。
「皮膚のカサカサは20年前からあったし、まさか私の病気なおると思ってませんでした。皮膚の腫瘤ができた時もガンやと思ったし、どうせ治らないんやったら停年まで家族のために働こうと思った。こんなにきれいになるのならはやく先生にみてもろたらよかったな~。」

奥さんもさらにこう付け加えた。「今までは全身から粉のようにりんせつが落ちて部屋中がまっ白になっていたため、1日2回は洋服を着替えて掃除をしていましたがその必要もなくなりました。又これからは温泉や旅行にも行けます。」

この様に良くなったことに私自身も驚きましたが、いちばん驚いていたのは患者さん本人であったようです。
もう少し遅ければ内臓や、脳に転移して死亡していた可能性も高いことを考えるとたかが水虫などとは言っておれない気がします。

リストマーク思うこと

培養とスライドカルチャーの結果、Trichophyton属の菌種と同定しました。
Trichophyton属というのは、最もありふれた足や爪の水虫の原因菌で、このように日常ごくありふれた菌が、リンパ節にまで入って人間の生命を脅かすというような例は、世界でもまだ数例しか報告されていません。

一般に水虫は、足や爪によくおこりますが、元来、皮膚や爪の様にケラチン蛋白を栄養源として生きているため、皮膚や爪の様にケラチン蛋白を持つ部位にはどこにでもおこってきてよいわけです。足や股部などにできやすいのは、湿気や温度、不潔などの菌が増殖しやすい状態にあたるためです。しかしながら、顔面や頭部に病気を起こすこともまれではありません。
頭部におこるケルスス禿瘡という病型では、毛に菌が寄生するためひどくなってくると毛包がやられてしまい、治療後も脱毛症状が残ってしまうことがあります。従って、早期発見、早期治療が大切ということになります。

 

「皮膚は内臓の鏡」とよく言いますが、その通りで、皮膚病から内臓疾患が発見されることもしばしばあります。特に、深在性真菌症の中には基礎の免疫力低下や糖尿病、悪性疾患といったものを合併することも多くあなどれません。
幸いにも今回お話した症例は基礎疾患を認めず、つい先日も外来に元気にやって来られました。かぜ気味で咳をしていた私に対し、「先生おだいじに」と言って帰っていかれる心優しい、いつまでも私の”心に残る”患者さんです。
”水虫を笑うものは水虫に泣く”この言葉は患者さんにとっても皮膚科医にとっても大切であると思います。これを「座右の銘」として日々の診察に生かしてゆきたいと考えています。

Tinea
水虫のイメージ写真

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